大田嘉仁氏著。
大田氏は、長年京セラで稲盛会長の秘書を務め、JAL再建の際も稲盛会長の側近として活躍した。本の中では、JAL再建までの具体的な道のりが忠実に描かれていて、非常に興味深いものがあった。
第1章 縁に導かれて
大田氏の話。稲盛和夫氏の直属の部下であり、京セラ生え抜きである。
同じ町内に生まれ、京セラに入社、海外留学、秘書となる。そのような方が、稲盛和夫氏と一緒に、JAL再建に取り組んでいく。
第2章 稲盛経営哲学 成功方程式とは何か
「人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力」
は稲盛フィロソフィの中の非常に有名なフレーズであるが、
「能力」は、先天的能力、ただし、進化する、
「熱意」は、努力とも言え、「考え方」を実践に導くもの、
そこに掛かる「考え方」は、マイナスからプラスに振れる。
なので、正しい「考え方」がいかに重要かとなってくる。
成功方程式は人生・仕事の結果を表すことができる方程式であり、方程式を用いれば、組織も変わる。つまり、フィロソフィをエンジン、方程式を手段とし、そしてやはりトップが全体を引き上げなければ、組織改革はなし得ないのではないか、といったところか。
第3章 なぜJALは経営破綻したのか
色々な要因があったのだと思う。
「全従業員の幸せを追求」は組合迎合と反発した幹部。
「JALは黒字を出してはいけない」という理屈。なんなんだ、それはw。公共交通機関=企業に国や政治が絡むと、ろくな事がない。
倒産するほど経営悪化しているのに、会社予算を1円でも多く獲得し、予算を全部使い切るとした不思議な文化。
経営会議上で、実績数字、目標数字等の定量数時が出てこない。月次が出るのが数か月かかり、しかも、概算とのこと。
倒産するべくして倒産したのかもしれない。
第4章 意識改革
意識改革の基本計画。
まずは、リーダー教育を実施する。
次に、JALフィロソフィを作る。
それを教材として、全社員対象フィロソフィ教育を行う。
やはり、自社文化、社風は外部に頼ることなく、自社で作るのが基本。
第5章 リーダーから変える
リーダー教育とマネージャー教育との混同。
ともすれば、同じものとみなされがちである。マネージャー=管理者と良く言われるが、行動力アップ研修では、マネジメントのことを「やりくり」と定義している。
当該書籍上でリーダーとは、どんな困難にぶち当たってもあきらめずにやり遂げようとする、一つの目標に向かって、部下を鼓舞して、何とかまとめていこうと考える、としている。
確かに、別物である。
あと、大事なことであるが、
「走りながら考える」。
研修後のコンパ懇親会の重要性。
毎回の席替え。
数字で経営するという意識を持たせる
【カリキュラム】
稲盛和夫氏の講義
「稲盛経営12箇条」経営の要諦を12項目にまとめたもの。
「稲盛和夫の実学」の中の「7つの会計原則」
「六つの精進」
第6章 全社員の意識を高め、一体感を醸成する
JALフィロソフィ
フィロソフィは、京セラでは3年間、盛和塾塾生企業でさえ、1年ほどかけて策定しているとか。3年間で再建終了と、タイムリミットが決まっているのであれば、逆算思考するほかない。
更に、新しい経営理念策定。
「JALグループ企業理念」
「JALフィロソフィ」の発表
フィロソフィについては、手帳にして、社員に配布。そしてフィロソフィ教育の教材とする。
教育目的は、正規、非正規問わず、JAL社員の意識を高め、一体感を醸成すること。
やはり、社内共通用語があると、一体感は醸成しやすいのだと思う。
最前線の現場で頑張っている社員のモチベーションを少しでも高める
遠くにいる社員にこそ気を配る。
変化を起こし続けることで経営陣の本気度を示す。
スピード感を大切にする。
第7章 フィロソフィと正しい数字で全員参加経営を実現する
いよいよアメーバ経営の導入。
前提として、「会計の7原則」の全員理解。
全員参加経営のためのフォーマット作成。企業規模が巨大なため、1年かかったらしい。
無駄チェックのための、共通経費、固定費を分解することによる「固定費の変動費」化。
税金一つとっても、分解することで、適正課税への見直しが可能となり、経費削減につながるかもしれない、とのこと。なるほど。
第8章 JALで生まれた社員の変化
事例紹介・・・ここ、凄いノウハウがいっぱい書かれている。ぜひ、読むべき。
■営業利益率10%以上目指す。
全員参加経営へ。現場の知恵が不可欠。
航空産業は、究極のサービス業。お客様サービスの費用は減らすな。
■全員参加で経費最小を目指す
従来は、お客様サービスを最初に削減していた、残念な気質。現場まで、経費削減の必要性が共有されていなかった。例えば、安全は聖域なので、海外の倍のコストをかけていた。高コスト体質。
⇒各部門の経営実績がオープンになった。例えば、パイロット、CAのハイヤー、タクシー、高級ホテル宿泊等の実態がオープンになった。
⇒自ら、ビジネスホテル利用をと言い始めたw
すべて他人事であった。経営実績が悪いのは、幹部の責任。
家計が困れば、外食や買い物を控えるのと一緒。
■現場社員の努力を讃える
若い女性社員が、主体的に、月2千円の経費削減を行った。少しでも会社をよくしたいと心の底から思ったからこそ実現できた。
■全員参加で売上最大を目指す
機材変更や臨時便運航。
現場にて、お客様ニーズ、採算、部門間情報連携。
ニーズを満たせる、収益貢献。サービス向上、売上アップ、採算向上へ。
■機内販売も一つの事業
CAが販売物、値段を決定、便ごとの採算を出すように指示。
全員参加で議論、自分事となり、商品を一生懸命説明し、販売。
経営者意識の高いCAが育つ。機内販売売上大幅増、高収益事業。
■マニュアル至上主義から心を込めたサービスへ
JALフィロソフィ教育、手帳、搭乗前ブリーフィングでの共有、実行。
第9章 愛情と真剣さ──稲盛さんのリーダーシップ
稲盛和夫さんの現場主義の話。後半、だんだんノウハウが濃密になってきた。
職場に出向いて、一人一人の社員に自己紹介。疲れた顔一つせず、みんなを励まして回る。
現場の社員は、稲盛さんのファンにすぐになった。
一巡後は、講義やコンパ、自分の思いを直接伝える。
アライアンス(同盟)変更の話。アメリカン航空からデルタ航空へ。損得で考えれば、高額資金を出してくれるというデルタ航空に変更がよい、しかし、何年もお世話になってきたアメリカン航空を変更するのは、短絡的。JALにはメリットがあるかもしれないが、アメリカン航空には大打撃となる。人間として正しい判断なのか?
「損得ではなく、人間として何が正しいのかで決めるべき」
アメリカン航空は大変喜んで、信頼関係がより強くなり、全面的に協力し合える人間関係が生まれた。お互いにハッピーな結果となった。
コンサルタント会社の売り込みをすべて断る話。JALは、フィロソフィとアメーバ経営だけで再建する。
全社員へ出された手紙の話。
社内報を通じて、自分の思いを直接社員に伝える。
パイロット候補生たちへの対応の話。路線大幅縮小、パイロット数減数、訓練中止、地上勤務へ。そりゃあ、怒りますよね。
幹部が逃げ回っていたら解決できるはずがない。自分が直接話をする。(コンパ)
後日、直接、経営トップが出てきて意見を聞いてくれた。感激した。駄目なものは駄目と言ってくれた。
本気で話す、勇気をもって行動する、困難から逃げず真っ正面から取り組む、あと、愛情。
クレーム対応への意識の変化の話。稲盛さんはすべてのクレームの手紙を通読し、返信内容の指示を出していた。稲盛さんの方が状況に詳しくなるので、営業担当役員が、うわべだけ対応を指摘されて、やり直しを命じられることもあった。
稲盛和夫さんの信念の話。
『常に』善きことを思わなければいけない。
どんな事情があろうと、相手を悪く言ったり恨んだりしてはいけない。まずは自分が一生懸命努力しなければだめなんだ。
相手の悪口を言い、自分の不遇を嘆いたところで、仕事がうまくいくわけではない。逆に、何もかもうまくいかなくなってしまう。
だから、どのような困難に直面しようと、どんなに不遇に陥ろうと、不平不満を言うのはなく、感謝の気持ちを忘れずに、前向きでいなければならない。
そうすれば必ず人生は良くなっていく。
無償の愛が社員の心に火をつける。
『謙虚にして驕らず』さらに努力を。現在は過去の努力の結果、将来はこれからの努力で。
第10章 甦った心
何よりも大切なのはヒューマンウェア。つまり人間の心は、磨けば必ず高まる。
フィロソフィ教育、自分たちの心を変えて行動を変えた。血肉化する。
JALフィロソフィの考え方
人間の本質は真善美に満ちたもの。正しいもの、善きもの、美しいもの。
人間の心の奥にある魂のレベルでは、人間は愛と誠と調和を追い求めている。
愛とは、他人の喜びを自分の喜びとする心
誠とは、世のため、人のためになることを思う心
調和とは、自分だけでなく、周りの人々みんなが常に幸せに生きることを願う心
人間の本質は美しい
一方で、
人間の心は弱くてもろい。朱に交われば赤くなる。
JALの社員も、昔は同じだった。JALの社風に染まっていってしまったのでは。
そのような人々が稲盛さんに啓発され、JALフィロソフィ教育を受け、自分の本来の姿を思い出し、それに戻ろうと努力を始めた。
そして、心が変わり、行動が変わっていったのではないだろうか。
リーダー教育を最初に受けた幹部。毎日徹底してリーダーの在り方を学んだ。もし月一の勉強会であれば、無理だったのでは。
稲盛和夫さんの話が言行一致していることを知り、幹部上司の変化、体現が、部下から信頼され始め、その輪がどんどん広がり、職場に活気が生まれてきた。
JALフィロソフィ教育、
その教材のJALフィロソフィ手帳、
JALフィロソフィ体験発表会での事例共有。
そして、成功方程式。
上(幹部)からも、下(現場社員)からも考え方が変わり、全社員の心が変わった。
善き思いとは何か。
『大善(だいぜん)は非情に似たり、小善(しょうぜん)は大悪に似たり』
そして、独善。独善から独裁へ。
小善や独善には、人から良く見られたいという私心が入る。結局は自分のためにやっている。純粋な善き思いではない。
『動機善なりや、私心なかりしか』
『和顔愛語(わがんあいご)』
感謝の見返りを期待してはならない、感謝の心を忘れない。
ありがとうの連鎖、感謝の循環、生き生きとした明るい職場になる。
『一国は一人を以て興り、一人を以て亡ぶ』
いずれにしても、稲盛和夫さんの哲学の素晴らしさ。