『恐れのない組織』は、心理的安全性というコンセプトの生みの親、ハーバード大学のエイミー・エドモンドソン教授の著書。
フィアレス「fearless」:恐れを感じない、勇敢な、大胆なといった意味を持つ形容詞。
心理的安全性=対人関係のリスクを安心して取れる環境。
心理的安全性は、多様性やイノベーションに欠かせない土台として注目されている。
Googleの研究で有能なチームに必要な成功因子のうち、最も重要なのが心理的安全性と結論付けられた。
『恐れのない組織』を読むと、
・心理的安全性がなぜ必要なのか
・心理的安全性が高い・低いときにどのような影響を及ぼすか
・心理的安全性を高めるためにどうすればよいか
がわかる。
第2部は心理的安全性が職場に与える影響がテーマで、3.11の福島原子力発電所の事故も事例として紹介されている。
『要約』
・発言と沈黙の非対称性があり、人は沈黙したくなる
・心理的安全性が高ければ生産性が上がる
(心理的安全性が低ければミスの隠蔽や不正行為が起こる)
・心理的安全性を高めるにはリーダーが土台をつくり発言を歓迎する
「沈黙することを優先する理由」
・生産性が高いチームはミスが少ないと想定していたら、逆にミス(の報告)が多いチームだった。
・さらに、ダイバーシティ(多様性)のある組織でマイノリティが自由に発言するためにも、心理的安全性が必要不可欠。
・ダイバーシティのある組織をつくるには、さまざまな人材を採用するだけでは不十分。
・変化の激しい時代に価値を創造し続けていくには、チームで最大限の成果を発揮することが重要であり、どんなに優秀な人材でも心理的安全性が担保されていないと優秀さを発揮できない。
・ただし、当然1人で作業が完結するような仕事には、心理的安全性と生産性は関係ない。
・ チームで仕事をする、アイディアを出すなど知的生産活動をするケースでは、心理的安全性が生産性の土台となる。
・逆に心理的安全性が低いと、ミスを隠蔽したり不正行為を行ったりするリスクが高まる。
・事例:フォルクスワーゲンの欠陥エンジン、ウェルス・ファーゴ銀行のスキャンダル
どれも不安や恐怖をベースにしたトップダウンの経営方法で、心理的安全性を低くすることで従業員を追い込むようなアプローチ。
・権力と沈黙による経営は一時的に成果が上がる瞬間はあっても、従業員が疲弊して長くは続かない。
・心理的安全性を高めるには、リーダーが土台をつくり発言を歓迎する。
「心理的安全性が高い=生産性が高いと分かったところで、どうやって心理的安全性を高めればよいのか」
・心理的安全性を高めるには、グループのリーダーが重要。
・心理的安全性はグループごとに決定される。
・同じ会社内でも心理的安全性が高かったり低かったりするのは、そのグループのリーダーのマネジメント方法に依存するから。
「リーダーに必要なツールキットは第7章にまとめられている」
・土台をつくる
・参加を求める
・生産的に対応する
・土台をつくるとは、仕事をフレーミングして仕事の意義を共有すること。(フレーミングは枠組みのこと。)
・失敗に対するネガティブな印象を払拭したり、自分の仕事が他者や会社全体にどうかかわっているかを理解させたりすることで、仕事に対する意識を変えて共有していく。
・特に、上司と部下をリフレーミングする(新しい枠組みでとらえ直す)のが有効。
<一般的な枠組み>
上司:答えを持っている/命令する/評価する
部下:指示どおりに行動すべき人
<リフレーミング後の枠組み>
上司:方向性を決める/方向性に磨きをかける
部下:貴重な知識と知恵を持つ貢献者
・部下を”貴重な知識と知恵を持つ貢献者”と捉えたら、意見をぜひ聞きたいという姿勢に変わるはず。
・参加を求めるというのは、当事者になってもらうこと。
・心からの関心を寄せ、探究的な問いを投げかけることで意見を引き出す。
・問いかけの大切さはコーチングやファシリテーションの本でもよく言及されている。
・質問力があることは良いリーダーに不可欠な資質。
・生産的に対応するとは、発言に対して感謝し失敗は恥ずかしくないと伝えること。
・失敗をなんでも許すということではなく、明確な違反には処罰する厳しさも必要。
・心理的安全性が高い=ぬるま湯と批判されることもあるが、なんでも許される、基準を下げることとイコールではない。。
『恐れのない組織』の感想:
■ブレイントラスト・ミーティング
監督たちとストーリーづくりの関わる人たちが、直近につくられたシーンを一緒に観て、ランチをともにし、その後、面白いと思うところと思わないところについて監督にフィードバックするのである。カギとなるのは、率直さだ。もっとも、率直であることはシンプルだが、決して簡単ではない。 p.137
・上記は、ピクサーの映画作りに取り入れられているブレイントラスト(専門家集団)の説明。率直な意見をしっかり聞くから多くの人に届く作品になる。
・ブレイントラストにはルールが3つある。
1フィードバックはプロジェクトに対して行う(個人攻撃しない)
2相手に強制できない(採用するかは監督の権限)
3フィードバックは共感の観点から行う(敬意を払っている)
・これはフィードバックするときの鉄則とも言える。とくに最後の”共感の観点”について、監督の構想や夢、届けたい想いなどに共感するベースがあるからこそ、フィードバックが受け入れやすいし建設的なフィードバックになる。
・目的は同じだけど、手段や表現方法に違いがあるだけ。根っこの気持ちが同じなら、意見の違いが感情的な対立にはならないはず。
■ここでわかるのは、明確なヒエラルキーと心理的安全性が、フィアレスな組織では相容れないものではないということである。ブリッジウォーターでは考えを頻繁かつ率直に言うのが当たり前になる必要があるが、一方で、率直に話すことがヒエラルキー―個人の実績を基盤の一部とするヒエラルキー―と共存している。ただし、コンセンサスによる意思決定は行われない。 p.147
・心理的安全性が高い組織というと、横並びで上下関係がなく、仲良しグループのようになってしまうのでは?と思われるが、意思決定権が誰にあるのか、権限と責任の所在をはっきりさせるのはビジネスでは大切。
・率直な意見交換は、意思決定者にいろいろな視点や気づきを与えるためであり、あくまでも決定権は意思決定者(上司やリーダー)にある。
・ピクサーの例でも、最終的に意見を採用するかの決定権は監督にあった。率直な姿勢と明確な上下関係は共存できる。
■なんとかしてくれ!同僚が職場で本音を言うのでイライラする!
(中略)心理的安全性があっても、有能さが保証されるわけではない。単に、人々がどのような貢献をできるかが見つけやすくなるだけだ。(中略)だが、同僚が率直に意見を言いやすいと感じている一方で、その発言に価値が感じられないなら、あなたには支援する責任がある。 p.253
・最後のパートでは、著者がよくある質問に答えている。
”率直過ぎる同僚にもう少し対人関係の不安を感じてほしい”というもの。
同僚に対して「また意味のないこと言ってるよ」と黙っているのは、沈黙に負けているとも言える。
・また、心理的安全性が高い=有能だというわけではない、万能薬ではなく、あくまで有能さを発揮するための土台という点が印象的。
■まとめ
・心理的安全性が組織の生産性を左右する
・心理的安全性とは対人関係のリスクを安心して取れるかどうか
・人間は発言するより沈黙するほうを選んでしまう
・心理的安全性が高いと生産性が高くなる
・心理的安全性が低いとミスの隠蔽や不正行為につながる
・ダイバーシティや優秀さを発揮する土台として心理的安全性が必要
・心理的安全性をつくるためにはリーダーの役割が重要
「心理的安全性」は、創造的・革新的なアイディアが必要な組織には大切な要素であると考えられる。